【1929/日本】「白面の貴公子」と「9歳の銃弾」―昭和4年上半期、エログロの裏側で弾けた狂気

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導入文

1929年(昭和4年)の上半期。この年の2月には帝都を震え上がらせた「説教強盗」こと妻木松吉が逮捕され、世間は大きな熱狂に包まれました。「モボ・モガ」が闊歩し、大衆文化としての「エロ・グロ・ナンセンス」が花開く一方で、足元には昭和恐慌の暗い影が忍び寄っていた時代です。
そんな昭和4年の前半、華やかな都市部と長閑な地方で、人間の道徳観を根底から揺るがす二つの猟奇的な事件が記録されました。片や「遺産を巡って血族を屠ったインテリの美青年」、片や「おやつの恨みで隣人を撃ち殺した9歳の少年」。今回は、年齢も動機も全く異なる二つの事件から、1929年の日本社会に潜んでいた「命の軽視」という病理をプロファイリングします。

1. 世田谷竹林・美青年御曹司による連続殺人事件(高橋富士郎事件)

  • 発覚: 1929年(昭和4年)4月24日逮捕(犯行は前年11月頃〜)
  • 犯人: 高橋富士郎(22歳 / 資産家の長男・美術学生)※報道により「藤郎」とも
  • 被害者: 実の弟(18歳)、および知人の老女
  • 殺害方法: 撲殺・絞殺、および竹藪への死体遺棄
  • 概要:
    昭和4年4月、連日新聞の社会面を大きく占拠する大事件が発覚しました。北海道の総資産50万円(現在の価値で約10億円近く)とも言われる大資産家の御曹司であり、東京の美術学校で彫刻を学んでいた高橋富士郎が、殺人容疑で逮捕されたのです。
    彼は前年11月、素行不良や金銭トラブルを理由に、実の弟である省二郎(18歳)を殺害。その死体を世田谷の竹藪に穴を掘って埋めました。さらに富士郎は、口封じあるいは金銭目的で水谷はるという老女をも手にかけています。
    特筆すべきは、彼のその後の行動です。死体を遺棄したのち、別の弟(末弟)を「邪魔だから」という理由で精神病院へと送り込み、自身は「アメリカへ高飛びして彫刻の展覧会を開く」ためのパスポートを悠然と申請していました。彫りの深い「白面の貴公子」が引き起こしたこの冷血な親族殺しは、当時の人々に「エログロ」の極致として消費されました。
  • 特異点:
    • 血族の排除システム: 邪魔な弟は殺して埋め、もう一人の弟は精神病院の檻へ入れるという、徹底した「障害物の排除」。
    • ギャップの衝撃: 芸術を志す裕福な美青年という、世間が抱く「ハロー効果(後光効果)」を逆手に取った完全犯罪の企て。
    • プロファイリング要素:
      • 犯人像: 典型的な[マキャベリアニズム][ナルシシズム]を併せ持つ[サイコパス]
      • 行動分析: 家族すらも自分の人生(アメリカでの芸術活動)の邪魔になれば消すべき「モノ」として扱う[デヒューマナイゼーション(非人間化)]が見られます。彼の計画は非常に[オーガナイズド(秩序型)]でしたが、己の特権意識が強すぎるあまり、最終的には捜査の手が及ぶことへの警戒が甘くなっていました。

2. 岡山・9歳男児による「焼き餅」猟銃射殺事件

  • 発生: 1929年(昭和4年)2月19日 / 岡山県
  • 犯人: 9歳の男児
  • 被害者: 遊びに来ていた隣家の6歳の男児
  • 殺害方法: 猟銃による頭部の狙撃
  • 概要:
    昭和4年2月、都市部での連続殺人に負けず劣らず恐ろしい事件が、岡山の片田舎で発生しました。
    ある日の午後、9歳の少年に母親がおやつとして「焼き餅」を出しました。しかし少年は「焼き方が悪い」と腹を立て、食べるのを拒否。そこへ遊びに来ていた隣家の6歳の男児が、「食べないなら、わしが食べてやろう」と餅を食べ始めました。
    これに激高した9歳の少年は「撃ち殺すぞ」と脅迫。6歳の男児が「撃ってもええわ」と言い返した直後、少年は本当に家の中にあった父親の猟銃を持ち出し、至近距離から6歳児の頭を撃ち抜いて射殺したのです。
  • 特異点:
    • 極端な短絡的動機: 「餅を取られた」という些細な怒りが、最悪の暴力へと直結している点。
    • 凶器へのアクセスの容易さ: 日常の空間に、即死をもたらす「猟銃」が手の届く状態で置かれていたという戦前の地方の環境。
    • プロファイリング要素:
      • 犯人像: 完全な[インパルシブ(衝動的)]犯罪であり、死の不可逆性を理解していない[幼児的万能感]の暴走。
      • 行動分析: 相手の挑発(撃ってもいい)に対して、その結果がもたらす意味(=相手が永遠に死ぬこと、自分が殺人者になること)を想像する[フォレンジック・アウェアネス(法科学的・結果的意識)]が全く発達していません。「ムカついたから目の前のスイッチを押した」という、最も原初的で純粋な悪意の形です。

姉妹探偵の事件考察

担当: 榎本佳穂 × 九条芙美音

芙美音:
「ちょっと待って、今回の事件、どっちもホンマに胸糞悪いんやけど……。遺産とプライドのために弟を殺して竹藪に埋めるイケメン彫刻家も最悪やけど、餅取られただけで近所の子を猟銃で撃つ9歳児って何なん!? 昭和4年、治安どうなっとるん?」

佳穂:
「ええ。対極にあるように見える二つの事件だけれど、本質的な共通点があるわ。それは『他者の命の極端なデバリュエーション(価値の切り下げ)』よ。22歳のインテリ青年は『自分の人生計画の邪魔だから』、9歳の少年は『自分のおやつを取られて腹が立ったから』。どちらも、相手の命の重さを、自分の目先の欲求よりも軽く見積もってしまったの」

芙美音:
「それにしても、9歳の子が猟銃って……。親はどこに隠しとってん。いくら田舎でも危なすぎるやろ」

佳穂:
「当時は今よりもずっと『死』や『暴力』が日常の身近にあった時代なのよ。現代のように『猟奇的な犯罪は特別な異常者が起こすもの』ではなく、環境やちょっとしたボタンの掛け違えで、誰の心の中にでも発現し得るものだった。……特に、9歳の少年の事件は、人間の抱える『本能的な攻撃性』にブレーキをかける『理性の発達』がいかに重要かを教えてくれるわね」

芙美音:
「お餅の恨みで銃をブッ放すなんて、動物以下の衝動やで……。佳穂はん、うちらは喧嘩しても、絶対に刃物とか銃とか持ち出さんようにしよな」

佳穂:
「安心しなさい。私があなたと争う時は、猟銃なんて野蛮なものは使わないわ。もっと静かで、証拠の残らない方法をちゃんと計算するから」

芙美音:
「だから、そういう冗談が一番怖いねんって!」


【免責事項】

本記事は、過去の報道(1929年当時の新聞記事等)や公開資料を基に再構成・作成しておりますが、一部に筆者の主観的な推測や解釈が含まれます。年齢や事件の詳細な時系列などは、当時の記録に基づいているため現在の基準とは異なる場合があります。また、記事内の「姉妹探偵の事件考察」は、自作小説のキャラクターによるフィクションの演出です。

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