1974年の冬。イギリス国民にとって、これほど長く、暗い冬はありませんでした。 IRA(アイルランド共和軍)による「対英本土爆破作戦」は、軍事施設から一般市民が集うパブへと標的を変え、無差別の殺戮劇へとエスカレートしました。
一方で、ロンドンの高級住宅街では、英国貴族が乳母を殺害して姿を消すという、まるでゴシック・ホラーのような事件が発生。 「テロの恐怖」と「貴族の転落」が交錯した、1974年最後の3ヶ月間を振り返ります。
1974年10月~12月 英国事件ファイル
1. ギルフォード・パブ爆破事件
- 発生日: 10月5日
- 場所: サリー州ギルフォード
- 概要: IRA暫定派による、秋のテロ攻勢の幕開けとなる事件。 軍人に人気のあるパブ「ホース・アンド・グルーム」と「セブン・スターズ」に仕掛けられた時限爆弾が爆発しました。 この爆発で兵士4人と民間人1人の計5人が死亡、65人が負傷。 後に「ギルフォード・フォー」と呼ばれる4人が逮捕されましたが、彼らは無実であり、英国司法史上最大の冤罪事件の一つとしても知られています。 【テロ】【爆破】【冤罪】
2. ルカン伯爵失踪事件(サンドラ・リベット殺害事件)
- 発生日: 11月7日
- 場所: ロンドン・ベルグレイヴィア
- 概要: 英国の上流階級を震撼させた、世紀のミステリーです。 第7代ルカン伯爵(ジョン・ビンガム)の別居中の妻の自宅地下で、子供たちの乳母であるサンドラ・リベット(29歳)が、鉛管で撲殺されているのが発見されました。妻も襲われ重傷を負いました。 犯人と目されたルカン伯爵は、友人の家に立ち寄った後、血のついた車を残して忽然と姿を消しました。彼が自殺したのか、海外へ逃亡したのかは現在も不明であり、イギリスでは「エルヴィス・プレスリー生存説」と同じくらい有名な都市伝説となっています。 【貴族】【未解決】【ミステリー】
3. 「ブラック・パンサー」第3の殺人(シドニー・グレイランド事件)
- 発生日: 11月11日
- 場所: ウエスト・ミッドランズ州ラングリー
- 概要: 連続強盗殺人犯「ブラック・パンサー(ドナルド・ニールソン)」による3件目の殺人。 またしてもサブ・ポストオフィス(郵便局)が標的となりました。ニールソンは裏口から侵入し、局長のシドニー・グレイランド氏(55歳)を射殺、妻の頭蓋骨を殴打して重傷を負わせました。 この事件の直後、彼はついに史上最悪の誘拐事件(レスリー・ウィトル事件)へと手を染めることになります。 【連続殺人】【強盗】
4. バーミンガム・パブ爆破事件
- 発生日: 11月21日
- 場所: バーミンガム
- 概要: 英国本土で起きたテロ事件として、当時史上最悪の被害を出した大惨事です。 若者で賑わう2軒のパブ「マルベリー・ブッシュ」と「タバーン・イン・ザ・タウン」で、鞄に隠された爆弾が相次いで爆発。 21人が死亡、182人が負傷しました。被害者の多くは10代から20代の若者でした。 この事件もまた、後に逮捕された「バーミンガム・シックス」と呼ばれる6人が冤罪であったことが判明し、真犯人はいまだ裁かれていません。 【テロ】【大量殺人】【冤罪】
5. ウーリッジ・パブ爆破事件
- 発生日: 11月7日
- 場所: ロンドン・ウーリッジ
- 概要: ルカン伯爵事件と同じ夜に発生したテロ。兵士が集まるパブ「キングス・アームズ」に爆弾が投げ込まれ、兵士1人と民間人1人が死亡。 この時期、パブに行くこと自体が「命がけ」の行為となっていました。
まとめ
1974年の暮れは、文字通り「血のクリスマス」に向かう日々でした。 特にバーミンガムの悲劇は、英国社会に決定的なトラウマを残し、対テロ法の厳罰化を一気に進めるきっかけとなりました。
一方で、ルカン伯爵の失踪は、特権階級の闇とスキャンダルとして大衆の関心を集め続けました。 「姿なき爆弾魔」と「消えた伯爵」。 二つの異なる恐怖が、1974年という年を象徴する幕切れとなりました。
次回は、1975年(昭和50年)。 年明け早々にブラック・パンサーが引き起こす「レスリー・ウィトル誘拐事件」、そしてロンドン地下鉄で起きた不可解な大量死事故へと続きます。
(姉妹探偵のメモ)
【姉・佳穂の分析メモ】 「IRAの戦略が『軍事目標』から『市民への無差別テロ』へ完全にシフトしたのがこの冬ね。バーミンガムの21人死亡は、単なる威嚇を超えた虐殺よ。そしてルカン伯爵……ギャンブル狂で時代遅れの貴族が、借金と親権争いの末に乳母を妻と間違えて殺害し、逃亡した。プロファイルするまでもなく、プライドだけが高い愚かな男の末路だわ」
【妹・彩心の感想】 「パブって、みんなが楽しくお酒を飲んでお喋りする場所でしょ? そんな場所が次々に爆発するなんて、当時の人たちはどれだけ怖かっただろう……。それに乳母のサンドラさん、巻き添えで殺されちゃうなんて可哀想すぎるよ。伯爵はどこへ消えちゃったのかな。今もどこかで生きてたりするのかな……」
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