【実録・昭和の怪物】別府3億円保険金殺人事件 —— 妻子を海に沈めた男「荒木虎美」という悪夢

国内凶悪犯罪ファイル

1974年(昭和49年)11月17日。 大分県別府市のフェリー乗り場で、一台の乗用車が海へと消えました。

それは、日本の犯罪史にその名を刻む「怪物」が引き起こした、あまりにも冷酷で、あまりにも大胆なショーの幕開けでした。 今回の特集は、総額3億1000万円という莫大な保険金を狙い、妻子3人を海の底へ沈めた男、**荒木虎美(あらき とらみ)**の闇に迫ります。

1. 時速40キロの「心中ごっこ」

事件は日曜日の夕方に起きました。 別府観光港の第3埠頭。荒木(当時47歳)が運転する日産スカイラインには、妻(当時40歳)と、次女(12歳)、長男(10歳)の計4人が乗っていました。

車は岸壁に向かって急加速し、時速約40キロでそのまま海中へ転落。 運転していた荒木だけは、窓を開けて脱出し、泳いで岸にたどり着きましたが、後部座席などにいた妻子3人は逃げ遅れ、冷たい海の中で溺死しました。

荒木は警察に対し、「運転ミスだ」「家族でドライブに来ていた」と主張しましたが、現場にはブレーキ痕が一切ありませんでした。

2. 「3億1000万円」の契約

警察が不審を抱いた最大の理由は、被害者たちにかけられた異常な額の生命保険でした。 妻と子供たちには、総額3億1000万円(現在の価値で十数億円相当)もの保険金がかけられていたのです。

当時の大卒初任給が約8万円の時代に、荒木が支払っていた月々の保険料は約14万円。 明らかに収入に見合わない契約であり、しかも契約の多くは事件の直前(1ヶ月〜数ヶ月前)に結ばれたものでした。

「家族を守るためだ」とうそぶく荒木ですが、その契約内容は「家族が死ぬこと」を前提とした投資に他なりませんでした。

3. 疑惑のデパート、荒木虎美という男

この男の恐ろしさは、今回の事件だけではありません。 荒木の過去を洗う捜査員たちは、戦慄しました。彼の周りでは、常に不審な死がつきまとっていたのです。

  • 前妻の不審死: 数年前、当時の妻が自宅の火災で焼死。この際も多額の保険金を受け取っています。
  • 暴力団員殺害疑惑: トラブルになっていた暴力団員が行方不明になり、殺害に関与した疑いが持たれていました。

白いスーツにサングラス、派手な振る舞い。 荒木はメディアの取材にも堂々と応じ、「俺は無実だ」「警察のでっち上げだ」とふてぶてしく語り、世間の注目を浴びることを楽しんでいるかのようでした。 その姿は、罪悪感という機能が欠落した「怪物」そのものでした。

4. 裁かれなかった結末

事件から逮捕まで、実に3年近くを要しました。 状況証拠は真っ黒でしたが、決定的な物証(荒木が意図的にハンドルを切った瞬間など)が乏しく、裁判は長期化しました。

一審、二審ともに死刑判決。 しかし、荒木は最高裁へ上告し、無罪を主張し続けました。

そして1989年(平成元年)1月。 荒木虎美は、拘置所内でガンにより病死します。享年61歳。 死刑判決は確定することなく、公訴棄却(裁判の打ち切り)となりました。 彼は最後まで「殺人犯」としての刑を受けることなく、この世を去ったのです。


まとめ

別府3億円保険金殺人事件。 それは、金のためなら最も身近な家族さえも「道具」として使い捨てる男の、底知れぬ悪意の記録です。

彼が海から這い上がった時、濡れた体で何を思っていたのか。 「計画通り」と笑っていたのか。それとも、失った家族への情など最初から1ミリも存在しなかったのか。 真実は、彼と共に永遠に闇の中へ消えてしまいました。


(姉妹探偵のメモ)

【姉・佳穂のプロファイリング】 「典型的なサイコパス(反社会性パーソナリティ障害)の特性が強く出ているわね。良心の欠如、浅薄な感情、そして異常なまでの自己顕示欲。時速40キロで海に突っ込むなんて、自分も死ぬリスクがある行為だけど、彼のような人間は『自分だけは助かる』という根拠のない全能感を持っているのよ。保険金の掛け方が露骨すぎるのも、警察の捜査能力を見下していた証拠ね」

【妹・彩心の想い】 「10歳と12歳の子どもたちが可哀想すぎる……。お父さんが運転する車でドライブだと思って、きっと楽しかったはずなのに。海に落ちる瞬間、そして冷たい水の中で、信じていたお父さんが自分たちを助けずに泳いで逃げていくのを見て、どんなに絶望しただろう。……許せないよ」


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