導入文
1928年(昭和3年)下半期。11月に昭和天皇の即位の礼(御大典)を控え、日本中が祝賀ムードに包まれようとしていたその裏側で、帝都・東京の暗部では血生臭い猟奇事件が発覚していました。
8月、千住の質屋一家3人が忽然と姿を消し、川に浮かんだ行李(こうり)の中から無惨な遺体が発見されます。逮捕された二人の男の口から語られたのは、3年前から迷宮入りとなっていた別の「一家3人惨殺事件」の身の毛もよだつ真実でした。
祝祭の光が強くなるほどに色濃くなる、昭和初期の貧困と欲望の闇。今回は、合計6人の命を冷酷に奪い去った「千住・大岡山連続一家殺人事件」の戦慄すべき手口と、犯人たちの異常性をプロファイリングします。
1. 千住・金貸し一家3人強盗殺人事件(連続殺人の発覚)
- 発生: 1928年(昭和3年)8月19日 / 東京府南足立郡千住町
- 犯人: 五味鐵雄、田中藤太
- 被害者: 金貸し業の男、およびその家族2名の計3名
- 殺害方法: 帯による絞殺、および行李(大きなカゴ)を用いた死体遺棄
- 概要:
昭和3年8月19日、五味と田中の二人は、借金の返済を激しく催促されていた金貸しの男を「金を返すから」と田中の自宅へ誘い出しました。男がやってくると、田中が背後から口を塞ぎ、五味が帯で首を絞め上げて惨殺します。
彼らの凶行はそれだけでは終わりません。借金の証文を奪うため、そのまま男の自宅へ向かい、留守番をしていた家族の女性2人も次々と絞殺しました。男の遺体は折り曲げて行李に詰め込まれ、川へと遺棄されます。
しかし、この杜撰な死体遺棄はすぐに発覚し、警察は二人を強盗殺人容疑で逮捕しました。取り調べの中、彼らは平然とタバコを吹かし、大して悪びれる様子もなく犯行を自白したと当時の新聞は伝えています。 - 特異点:
- 借金苦による短絡的凶行: 昭和恐慌の余波で膨れ上がった借金を「債権者ごと消す」という極めて自己中心的な解決策。
- 異常な冷酷さ: 目的達成のために、無関係な家族(目撃者)を全く躊躇なく殺害する点。
- プロファイリング要素:
- 犯人像: 金銭という純粋な[インストルメンタル(道具的)]目的のために動く[サイコパス]。共犯関係にありがちな「責任の押し付け合い」以上に、両者が共鳴して暴力へのハードルを極端に下げ合う[フォリエ・ア・ドゥ(感応精神病的な共犯関係)]の側面が見られます。
2. 大岡山・女優一家3人惨殺事件(暴かれた3年前の真実)
- 自白: 1928年(昭和3年)8月末 / 東京・大岡山(事件発生は1925年9月)
- 犯人: 五味鐵雄、田中藤太
- 被害者: 女優・中山歌子の親族ら計3名(うち1名は9歳の女児)
- 殺害方法: 絞殺による一家皆殺し
- 概要:
千住の事件で逮捕された五味に対し、警察はカツ丼ならぬ「うなぎ」と「白鷹(酒)1升」を与えて徹底的な取り調べを行いました。すると酔いが回った五味の口から、驚くべき過去の犯罪が語り出されます。
「3年前の大岡山3人殺しも、俺たちがやった」
それは大正14年、人気女優・中山歌子の親族が住む大岡山の自宅で、妹夫婦と9歳の養女が絞殺され、預金通帳が奪われた未解決事件でした。当時、警察は別人を誤認逮捕(後に釈放)するなど捜査は迷走していましたが、実は主犯の五味は被害者の「義理の兄(妻が被害者の姉)」という身内だったのです。
奪われた時計や指輪が証拠として見つかり、二人は計6人を殺害した稀代の連続殺人鬼として死刑台へと送られることになりました。 - 特異点:
- 親族への偽装工作: 五味は身内として大岡山の葬儀にも参列し、悲しむ素振りを周囲に見せていました。
- 完全犯罪の崩壊: 3年間隠し通した犯罪が、同様の手口(一家皆殺しと絞殺)を繰り返したことによって芋づる式に暴かれたケース。
- プロファイリング要素:
- 行動分析: 五味には強烈な[マキャベリアニズム]と[ナルシシズム]が見受けられます。身内を殺して通帳を奪い、葬儀で涙を流すという[マニピュレーション(操作)]を平然と行えるのは、他者を人間として認識していない[デヒューマナイゼーション(非人間化)]の確たる証拠です。彼にとって被害者は、ただの「壊せる金庫」に過ぎなかったのです。
姉妹探偵の事件考察
担当: 榎本佳穂 × 陸奥凛音
凛音:
「……合計6人やて!? 千住の事件も大岡山の事件も、用があるのは金貸しや通帳を持ってる人だけやのに、家にいた女の人や小さな子どもまで皆殺しにするなんて……。血も涙もない悪魔やわ」
佳穂:
「ええ。彼らの行動原理は極めて合理的で、かつ致命的に冷酷よ。目撃者を残せば捕まる、だから全員『処理』する。彼らにとって殺人は、借金返済や遊興費を得るためのただの『タスク(作業)』になっていたのね」
凛音:
「タスクって……。でも大岡山の事件なんて、五味にとっては自分の妻の親族やろ? お葬式で泣いてみせるなんて、まともな神経やったら絶対無理や。それに、警察の取り調べで『うなぎと酒』出されてペラペラ自白するっていうのも、腹立たしいわぁ」
佳穂:
「彼は自分が『特別な存在』だと信じ込んでいたのよ。完全犯罪を一度成し遂げたという『成功体験』が、彼の『ナルシシズム』を肥大化させた。だから警察の尋問に対しても、罪悪感からではなく、『俺たちの偉大な犯罪計画を自慢したい』という歪んだ承認欲求から自白に転じたのよ」
凛音:
「……昭和3年。11月には御大典で国中が提灯行列や花火で浮かれていたっていうのに、その足元の暗がりには、こんな怪物がうごめいていたんやね」
佳穂:
「光が強ければ、影も濃くなる。……どんなに時代が華やかに装っても、人間の根源的な欲望(シャドウ)は、決して消えることはないのよ」
【免責事項】
本記事は、過去の報道や公開資料、当時の世相を基に再構成・作成しておりますが、一部に筆者の主観的な推測や解釈が含まれます。事実関係の正確性を完全に保証するものではありません。 また、記事内の「姉妹探偵の事件考察」は、自作小説のキャラクターによるフィクションの演出です。あくまで一つの視点・エンターテインメントとしてお読みください。
… 戰禍の濟南 (1928) Documentary … この映像は1928年(昭和3年)当時の緊迫した歴史的背景や社会の空気感を映し出しており、本事件が起きた激動の時代状況を視覚的に理解するのに役立ちます。



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